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日本や世界が警鐘を鳴らす8つの「低価値医療(Low-Value Care)


「とりあえず検査しておきましょう」「念のため薬を出しておきますね」。こうした言葉に、私たちはつい安心感を覚えてしまいます。「医療は多ければ多いほど良い」という考え方は、多くの人に共通する感覚かもしれません。

しかし、世界中の専門家が「患者のためにならないばかりか、害になる可能性さえある」と警鐘を鳴らす医療行為があることをご存知でしょうか?

患者の転帰を改善せず、医療費や害を増大させる「低価値医療」(Low-Value Care)に関する包括的な概要を提供しています。不必要な画像検査、ウイルス性疾患への抗菌薬処方、過剰な心臓検査、および特定の不必要な手術が、世界、日本で問題視されています。この記事では、私たちが見直すべき「低価値医療(Low-Value Care)」の代表的な例を、分かりやすく解説していきます。


【目と耳で学べる!プライマリ・ケア動画】

7分でわかる!低価値医療(Low-Value Care)


【目と耳で学べる!プライマリ・ケア動画】

3分でわかる!低価値医療(Low-Value Care)


【ながらで耳で学べる!プライマリ・ケア ラジオ】

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【目/文字で学べる!プライマリ・ケア】


1.    その腰痛や頭痛、めまい本当に画像検査(CT/MRI)は必要?


多くの人が経験する「3か月未満の非特異的な腰痛」や、「緊急性のない頭痛」や典型的な「片頭痛・緊張型頭痛」、「急性めまい」に対して、安易にCTやMRIといった画像検査が行われている現状や、ひどい医療機関には、診察をするまえにルーチンでCTやMRなどの画像検査をしているところもあります。しかし、最新の研究では、これらの症状に対するルーチンな画像検査は、患者のその後の経過を改善しないことが分かっています。ある研究では、腰痛に対する画像検査の実に30~40%が不適切だったと報告されており、これは決して稀な話ではありません。それどころか、「偽陽性(異常がないのに異常と判定されること)」によってさらなる過剰な診断や不必要な治療につながるリスクを高め、放射線被曝や医療費の増大といった具体的なデメリットも伴います。この問題は極めて重要視されており、米国、カナダ、オーストラリア、欧州連合(EU)の専門家団体が推進する「Choosing Wisely(賢い選択)」キャンペーンにおいて、ほぼ共通して「最重要課題の1番目」に挙げられています。


2. 「念のため」の心臓検査が、かえって不安を招く


次に問題となるのは、特に症状のない、心臓病のリスクが低い人々に対して、早期発見を目的として行われる心電図や心エコーなどの過剰なスクリーニング検査です。ある権威ある研究(JAMA Intern Med 2017)では、こうした検査は、患者のその後の健康状態(アウトカム)を改善したり、病気を防いだりする効果はないと結論づけられています。むしろ、偽陽性がきっかけで、心身を疲弊させる「検査の連鎖」に陥ってしまう危険性も指摘されており、不必要な追加検査や専門医への受診、紹介が繰り返され、結果的に大きな不安を生み出しかねないのです。


3.基礎疾患のない数値が高いだけの脂質異常症に薬物治療、健診や医療機関で1回測定しただけでの高血圧での薬物治療。それは本当に必要?


 まず、脂質異常症。健診や採血で数値が高かっただけでなんとなく正常値を目標に薬物療法を受けていませんか?実は、悪玉コレステロール、つまりLDLコレステロールの管理目標値(目指すべき目標値)は、実は患者さんの背景で異なります。健康な若い方、動脈硬化のリスクとなるような基礎疾患のない方の場合には、数値が高いだけでは薬物治療の対象になりません。

したがって、「悪玉コレステロールの値が~と高いから、薬を飲んだ方が良い」と値だけをみて一概に言うことは難しく、性別・年齢を含めた患者さん個々の背景因子をみて、総合的に治療すべきかすべきでないかを判断しないといけないのです。

 高血圧。健診や医療機関で測定した血圧が1回高かっただけでは、薬物治療の適応にはなりません。自宅での安静時の定期的な測定のうえで、高血圧の基準を満たした場合に、薬物治療が必要を検討します。待合室で測定し、自宅での数値を確認せずに、「いつもと変わりませんね」とだけ話し、薬を処方する・・・10秒診療を受けていませんか?していませんか?


4. 風邪に抗菌薬(抗生物質)は「百害あって一利なし」


画像検査と同様に、私たちの「安心感」が逆効果になりがちなのが、風邪に対する抗菌薬の処方です。ウイルスが原因である「上気道炎(いわゆる風邪)」や「急性気管支炎」に対して抗菌薬が処方されることがありますが、最も重要な事実は、抗菌薬は細菌にしか効果がなく、ウイルスには全く効かないということです。効果がないだけでなく、副作用、アレルギー反応、健康に不可欠な腸内細菌への悪影響といった明確な害をもたらします。さらに、不適切な使用は、世界的な脅威となっている「薬剤耐性(AMR)菌」を拡大させる大きな原因となります。この問題は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)やWHO(世界保健機関)も警鐘を鳴らす「全世界で最重要課題」の一つとされています。


5 風邪に対症療法薬・総合感冒薬は、「メリットよりデメリットが勝る」


 鼻炎には、鼻炎どめ、咳には咳どめ、気管支をひろげる薬、痰には痰切り薬、炎症には炎症止め、それらがまとめて全部入った総合感冒薬、保険適応の医師の処方する総合感冒薬、

これらの多剤処方をされる昭和時代からの日本独特の慣習処方がされています。残念ながら、これらは効果がほとんどないというのが現実であり、メリットよりデメリットが勝る事になります。風邪は、早くて4~5日、長くても7~10日で自然治癒するウイルス性感染症です。薬が効いたと感じたのは、自然経過であり、その風邪の症状は身体が治癒しようとする防御反応でもあります。最近は、その症状の治癒を促進するために適切な漢方薬の効果を示す医学的報告も出てきていますので、患者さんごとに適切な漢方薬を選定することでメリットが勝る可能性も指摘されています。しかし、そもそも風邪は自然治癒するものなのです。


6.細菌性体表感染症(中耳炎、ふくびくうえん、咽頭扁桃炎、口腔歯科感染症)にはほとんどが抗菌薬不要?


身体の体表に近い部位の感染症である中耳炎、ふくびくうえん、咽頭扁桃炎、口腔歯科感染症は、局所・全身ともに重症でない限りは、細菌性であっても多くは自然治癒します。中耳炎だから、ふくびくうえんだから抗菌薬、のどが赤いから抗菌薬、局所処置もせずになんとなく抗菌薬としてしまう口腔歯科感染症。これらは、状態を評価せずに自然治癒する病態に対し、なんとなく抗菌薬を処方してしまう臨床診断学の見極めのない医師の慣習的な医療となり、「薬剤耐性(AMR)菌」を拡大させる大きな原因となります。抗菌薬が必要とされるPhaseかどうかを感染症の知識のアップデートしている医師に見極めてもらう必要があります。病名イコール抗菌薬ではないのです。


7.咳症状になんでもかんでも喘息、咳喘息と診断や喘息のけ?


気管支炎の咳には、気管支拡張薬の飲み薬や胸や背中に貼る薬は、効果がなく、動悸や息切れなどの副作用があり、デメリットが勝ります。喘息の場合に昔はよく使用されていた気管支拡張薬の飲み薬や点滴ももはや効果がないとされています。喘息の診断は非常に難しいことも多く、悩ましいことも多いのですが、治療の基本は、吸入薬で、急性期の治療薬(発作治療薬)として、吸入β2刺激薬: 喘息発作時に気管支をすばやく広げて症状を緩和します。

慢性期の治療薬(長期管理薬)として吸入ステロイド薬: 気道の炎症を抑える根本的な治療薬で、継続的な使用が重要です。副作用のリスクが低く、長期に安全に使用できます。これらで効果がない場合には、よほど重症の場合か、一番多いのは、診断そのものが違う可能性を検討する必要性もあります。見極めが重要となります。


8 日本独自の慣習?「風邪に点滴」「とりあえず採血でCRP検査」


これまで見てきた世界共通の課題に加え、日本の医療現場で特に問題視されつつある慣習もあります。代表的なものが「風邪に対するビタミン点滴・輸液」と、採血で炎症反応を調べる「CRPのルーチン測定」です。風邪に対する点滴には回復を早めるなどの医学的根拠はなく、水を補ったからといって風邪が早く治ることもありません。脱水症状があると判断できる状態にはメリットが勝りますが、経口摂取できるような場合には脱水は考えにくいのです。むしろ針を刺すことによる不要な感染リスクさえ伴います。また、CRP測定は、欧米では特定の状況を除いてルーチンでは行われなくなっており、「日本特有のCRP依存診療」が過剰診断につながっている可能性が指摘されています。そもそもCRPはウイルス感染症でも外傷や熱傷なども高値になります。CRPが5であろうと、8であろうと抗菌薬が必要である根拠にはなりえないのです。これらは、風邪に複数の咳止め薬が処方されがちな傾向などと共に、患者側の「安心感」から行われている側面もありますが、科学的根拠の観点から見直す必要があります。

 
 

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