top of page

嚥下リハビリ

急にむせこむ、誤嚥することが増えた、ひどくなったと感じていませんか?

その「むせ」は身体からのサイン

「最近、食事中にちょっとしたことでむせるようになった」「薬を飲むとき、喉に引っかかる感じがして怖い」……。そんな日常の小さな違和感を、「単なる老化」と片付けてはいませんか?

実はその「むせ」や「飲み込みづらさ」は、身体が発している切実なSOSかもしれません。現在、健康な状態から要介護状態へと移行する境界線、いわゆる「オーラルフレイル(口の機能低下)」という概念があります。お口は全身の健康の入り口です。飲み込む力の衰えは、単に食事が不便になるだけでなく、食べ物や細菌が誤って気管に入る「誤嚥(ごえん)」を引き起こし、命に関わる誤嚥性肺炎を招くリスクをはらんでいます。一生おいしく食べ、自立した生活を送るために、今こそ「飲み込み力」の真実に目を向けてみましょう。

オーラルフレイルを放置した人が数年後に直面するリスクは
身体的フレイル(虚弱)のリスク:2.4倍
要介護認定を受けるリスク:2.4倍
総死亡リスク:2.1倍

(Tanaka T, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017)
という報告もあり、オーラルフレイルをそのまま放っておくのは、とても危険です!
この数字が示すのは、口の機能低下が単なる局所の問題ではなく、生命そのものの寿命を左右するという冷徹な現実です。しかし、オーラルフレイルは「健常」と「疾患」の間に位置する可逆的な状態でもあります。適切なケアを早めに対応することで回避できる可能性が高まります。


舌の位置と「お口ポカン」のリスク

飲み込み力が低下する根本原因、それは「舌の筋力低下」とそれに伴う「低位舌(ていいぜつ)」にあります。

驚かれるかもしれませんが、舌は「筋肉の塊(筋肉流体系:Muscular Hydrostat)」です。骨を持たず、タコの足のように筋肉の張りだけで形と位置を保っています。本来、正しい舌の位置は、舌先が上の前歯の裏に触れ、舌全体が上あごのくぼみ(硬口蓋)にぴったり吸い付いている状態です。しかし、筋力が衰えて舌の位置が下がると、連動して下あごが開き、無意識に「お口ポカン(口呼吸)」の状態になってしまいます。


飲み込みの質を決めるのは「姿勢」と「舌の重心」

「最近、食事中にむせることが増えた」という方の原因は、舌などの筋力不足だけではありません。真の盲点は、首の角度と全身のバランスにあります。
特に現代人を悩ませる「頭部前方位(HFP)」、いわゆる猫背やスマホ首は、嚥下に必要な舌骨上下筋の活動を「抑制」してしまうことが最新の筋電図研究で証明されています。筋肉が固まるのではなく、スイッチが切れた状態になってしまうのです。 リハビリの現場では、以下の「統合アプローチ」が最優先されます。

姿勢の矯正:食事時の体幹角度を30〜60度に調整し、軽く顎を引く(頸部前屈)ことで、食道の入り口をスムーズに広げます。
舌によるバランス制御:驚くべきことに、舌を正しい位置(上あごの「スポット」)に置く「舌UP position」をとるだけで、全身の重心が安定し、立位のバランス能力が向上することが示唆されています。

つまり、「姿勢が整うから飲み込める」だけでなく「舌の位置を整えるから姿勢が安定する」という双方向のフィードバックが働いているわけです。


1日3分の日々の筋トレ「あいうべ体操」

舌の位置を上げ、鼻呼吸を取り戻すために極めて有効なのが、「あいうべ体操」です。臨床的には、「最大舌圧が20kPa(キロパスカル)以下」になると嚥下障害や低栄養のリスクが激増すると言われていますが、この数値を改善する近道がこの体操です。

【あいうべ体操の手順】
次の4つの動作を順に行います。声を出す必要はありません。ポイントは、各動作を「1秒ずつキープ」し、大きくゆっくり動かすことです。
「あ〜」:口を大きく、楕円形を作るように開け、1秒キープします。
「い〜」:口を思い切り横に広げ、首の筋肉が浮き出るくらい意識して1秒キープします。
「う〜」:唇を強く前に突き出し、お口の周りの筋肉を絞るようにして1秒キープします。
「べ〜」:舌をあごの先に向かって、思い切り外へ伸ばして1秒キープします。

【実践のポイント】
目標: 1セット(あ・い・う・べ)を10回とし、1日3セット(計30回)を目指しましょう。
タイミング: お口の乾燥を防ぐ入浴中や、リラックスできる就寝前が効果的です。

注意: 顎関節症の方は無理をせず、「い」と「う」の動作のみを繰り返すことから始めてください。


食事前の誤嚥を防ぐ「準備運動(間接訓練)」

スポーツ選手が走る前に準備運動をするように、私たちも「食べる」という高度な運動の前にはウォーミングアップが必要です。

「誤嚥が最も起こりやすいタイミングは『食べ始め』」
という知見があります。喉がまだ「食事モード」に切り替わっていないからです。食事の直前に以下の準備を行いましょう。

リラクゼーション:
深呼吸で心を落ち着かせ、首を回す、肩を上げ下げするなどの動作で喉周りの筋肉をほぐします。

パタカラ体操(分析的アプローチ): それぞれの音には明確な役割があります。

「パ」: 食べ物をこぼさないための「唇の閉鎖力」を鍛えます。
「タ」「カ」: 舌を上あごに押し付け、食塊を喉へ送り込む「舌挙上力」を鍛えます。
「ラ」: 食べ物を咀嚼しやすい位置にまとめる「舌の巧緻性」を高めます。

このわずか1〜2分の習慣が、喉の「スイッチ」を入れ、安全な一口目を支えてくれるのです。


安全に食べるための「姿勢」と「環境」の整え方

食事中のアクシデントを防ぐには、物理的な「環境設定」が欠かせません。

【理想の姿勢:30〜60度のリクライニング】
ベッドなどで食事をする場合、上体を30〜60度起こした姿勢が推奨されます。これは、重力を利用して食べ物が食道へ流れやすくするためです。
最も重要なのは「あごを引く(頸部前屈)」こと。
あごを引くと気道が物理的に狭まり、逆に食道への入り口が広がるため、誤嚥のリスクを劇的に下げることができます。

【集中力と介助のコツ】
ノイズを消す: テレビを消し、おしゃべりを控えて「飲み込むこと」に集中できる環境を整えます。
一口の量も、ティースプーン1杯程度から調整してください。

目線を合わせる: 介助者は必ず本人と同じ、あるいは低い位置に座ります。
上から食べ物を運ぶと、本人のあごが上がってしまい、誤嚥を誘発する「最も危険な姿勢」になるからです。

 
スライド1.JPG
スライド2.JPG
スライド4.JPG

since 2008 Nagata Clinic

bottom of page