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百日咳って、なあに?

  • 7月12日
  • 読了時間: 9分

知っておくべき学びの処方箋


1. ただの風邪ではない「長引く咳」の正体


「風邪の後に咳だけが数週間も続いている」「夜になると咳き込んで眠れない」といった経験はありませんか?多くの場合、それは単なる風邪の名残ではなく百日咳(ひゃくにちぜき)かもしれません。


かつては「子供の病気」というイメージが強かった百日咳ですが、近年、日本を含む世界中で大人の感染が急増しています。医療が発達した現代において、なぜこの病気が「再燃」しているのでしょうか。そこには、私たちが「自分事」として知っておくべき5つの意外な事実が隠されています。



百日咳の原因と感染経路

  • 病原体: グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)が主な原因。

    一部はパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)による

  • 感染経路: 鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染、および接触感染

  • 潜伏期間: 約5日から10日間(最長で3週間)



2. 事実1:麻疹に匹敵する「最強クラス」の感染力


百日咳の原因菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)は、驚異的な感染力を持っています。感染症の広がりやすさを示す「基本再生産数(R0)」において、百日咳は非常に高い数値を記録します。


一般的なインフルエンザのR0が1〜3程度であるのに対し、百日咳の数値は16〜21に達します。


これは「1人の感染者が、免疫を持たない周囲の人間を最大21人も感染させる」可能性があることを意味し、感染症の中でも最強クラスとされる「麻疹(はしか)」に匹敵する強さです


「百日咳のR0は16-21であり、1人で周囲の16~21人に感染させる力がある感染症です。麻しんと同程度で非常に強い感染力があります。」


百日咳の症状と年齢層別の特徴

  • 発症しやすい年齢層:

    • 感染の中心は小児、特に生後6カ月未満の乳児は重症化しやすく、死亡者の大半を占める。

    • ワクチン未接種者や、ワクチン接種後の免疫が減衰した人(特に10歳代)での発病が多い。

  • 症状の年齢層別特徴:

    • 乳幼児(特に生後6ヶ月未満): 典型的、古典的な症状を呈しやすく、ワクチン未接種・接種回数が少ない場合に顕著。特徴的な咳がなく、無呼吸発作、チアノーゼ、けいれん、呼吸停止に進展することがある。

    • ワクチン接種歴のある5~15歳や成人: 古典的な百日咳の症状が現れにくく、診断が難しい。「風邪」「咳喘息」「マイコプラズマ疑い」と誤診される可能性も。

      重症化は稀で、軽度の咳が長引くことが多く、発作性の咳嗽は非常に少ないが、発作性の嘔吐を伴うような咳が唯一の疑われる症状となることが多い


百日咳の疑いポイント(プライマリケア診療での判断基準)

以下の症状を伴う患者の13~32%が百日咳であったという研究結果がある。

Cornia PB, Lipsky BA. Pertussis Infection in Adults. JAMA. 2026;335(12):1084–1085. doi:10.1001/jama.2025.26153

Cornia PB, Hersh AL, Lipsky BA, Newman TB, Gonzales R. Does This Coughing Adolescent or Adult Patient Have Pertussis? JAMA. 2010;304(8):890–896. doi:10.1001/jama.2010.1181


高熱があまりなく、家族や周囲に百日咳確定例/疑い例がいる場合は、百日咳を疑い精査をする。


  1. 咳のみ/咳が優位に強い症状であり、1週間経過してもさらに悪化している

  2. 一呼吸の間に爆発的・連続的な咳を起こす(顔面紅潮、涙ぐむ眼などを伴う)

  3. 咳嗽後に嘔吐する



百日咳の病期分類(ワクチン未接種の年齢や未接種患者)

発症後、約2~3週間単位で進行する。

  • カタル期(Phase1): 約1~2(3)週間持続。

    • 潜伏期(約5~10日、最長3週間)を経て、普通のかぜ症状で始まる。

    • 徐々に咳の回数・程度が悪化する。

  • 痙咳期(Phase2): 約2~3週間持続。

    • 特徴的な発作性けいれん性の咳(痙咳)となる。

    • 短い咳が連続的に起こり(スタッカート)、息を吸う時に笛音のような音(笛声:whoop)が出ることがある。

    • 咳嗽発作が繰り返し(レプリーゼ)、しばしば嘔吐を伴う。

    • 発熱はないか、あっても微熱程度。

    • 顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることもある。

    • 非発作時は無症状だが、刺激で発作が誘発され、夜間に多い傾向がある。

    • 乳児期早期では特徴的な咳がなく、無呼吸発作、チアノーゼ、けいれん、呼吸停止に進展することがある。

  • 回復期(Phase3): 2~4週間持続。

    • 激しい発作は次第に減衰し、2~3週間で認められなくなる。

    • その後も時折発作性の咳が出ることがある。

    • 全経過約2~3カ月で回復する。




3. 事実2:ワクチンは「一生モノ」ではないという落とし穴


多くの大人が「自分は子供の頃に定期接種を受けているから大丈夫」と考えがちですが、ここに最大の落とし穴があります。


百日咳ワクチンの免疫は、時間の経過とともに弱まっていく免疫減衰(Waning immunity)という現象が避けられないためです。


日本の研究やガイドラインによれば、ワクチンの効果は接種後512年ほどで減衰します。


つまり、幼少期の接種を終えていても、中高生や大人になる頃には防御力がほとんど残っていない可能性があるのです。さらに近年では、菌自体がワクチンの標的となる抗原を持たない「ワクチン抗原欠失株(エスケープ変異株)」へと進化していることも、再流行の一因として指摘されています。


乳児期に打つ「5種混合(DTaP-IPV-Hib)」などの効果を維持するためには、

現在の定期接種後(1歳6ヵ月)

年後にあたる歳未満の小学校就学時頃

3種混合(DPT ジフテリア+百日咳+破傷風)任意接種

1011年後にあたる1112歳の定期接種の2種混合(DT ジフテリア+破傷風)の時に

2種混合ではなく、3種混合(DPT)を任意で選択したり、

大人になってから追加接種を行ったりする「免疫の補強」が、自分と社会を守るための論理的な選択肢となります。


4. 事実3:大人は「無自覚な感染源」になりやすい


大人やワクチン接種後に5~12年以上経過した年齢の小児(小学生/中学生~)が百日咳にかかった場合、典型的な症状が出にくいという特徴があります。


ワクチン未接種の時期の子供であれば咳の後に「ヒュー」という笛のような音(笛声)が出る激しい発作が見られますが、大人は「ただの軽い咳がダラダラと続く」だけのケースが少なくありません。


この「軽症であること」が、実は最大の防衛リスクとなります。本人が百日咳だと気づかずに日常生活を送ることで、周囲に菌を広めてしまうからです。特に注意すべきは、ワクチン未接種の乳児への感染です。


家族内に1人でも感染者が出た場合未接種の同居家族への感染率は8090%という衝撃的な数値が報告されています。大人の無自覚な咳が、免疫のない赤ちゃんの命を脅かす「感染源」になってしまうのです。





もしも、家族が感染したら?暴露後予防投与:PEP




5. 事実4:赤ちゃんを守るための「黄金の妊娠2730週」

自分でワクチンを打てない新生児を守るためには、お母さんからの「受動免疫」というプレゼントが不可欠です。妊娠中に妊婦自身がワクチン(Tdap、日本では代替案として3種混合DPT)を接種することで、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を移行させることができます。


最新の研究では、妊娠27〜36週の間でも、特に「27〜30週」の早期接種が最も抗体移行が高いという具体的な「黄金期間」が示されています。

  • 抗体濃度のピーク: 臍帯血中の抗体濃度は、30週付近での接種時に最高値を示し、33週以降の接種では低下する傾向があります。

  • 十分な移行時間の確保: 早めの時期に接種することで、出生までに赤ちゃんへ十分な抗体を送る時間を確保できます。

この数週間の差が、新生児を百日咳から守るための医学的な鍵となります。








6. 事実5:抗菌薬は「咳を止める魔法」ではない

百日咳と診断されるとアジスロマイシンなどの抗菌薬が処方されますが、ここで知っておくべき事実は、薬を飲んでも「今出ている咳」がすぐに止まるわけではないということです。

注!抗菌薬であれば、どれでもいいのではありません。百日咳に効果のある抗菌薬を適切なタイミングで適切な量をつかうことが重要です。


百日咳の激しい咳の原因は、菌そのものではなく、菌が放出した「毒素」によって気道の組織(線毛上皮)が損傷していることにあります


一度傷ついた組織の修復には時間がかかるため、菌がいなくなった後も「100日咳」と呼ばれるほど長期間の咳が続くのです。


抗菌薬(抗生剤)は...百日咳の症状の持続期間や重症度を改善しないことがCochraneレビューで示されています。特に発症後1週間を過ぎてから治療を開始した場合、臨床経過への効果はほとんど期待できません。

Altunaiji SM, Kukuruzovic RH, Curtis NC, Massie J. Antibiotics for whooping cough (pertussis). Cochrane Database of Systematic Reviews 2007, Issue 3. Art. No.: CD004404. DOI: 10.1002/14651858.CD004404.pub3. Accessed 12 July 2026.


抗菌薬の主な目的は、あくまで「菌を除去し、周囲への感染を食い止めること」です。通常、発症から3週間を過ぎると除菌目的の投与は推奨されませんが、出産間近の妊婦や医療従事者の場合は、新生児への伝播リスクをゼロにするために発症後6週間まで治療が検討されることもあります




注!ST合剤は、標準的には7日間投与重症例や特殊な状況では14日間投与

Altunaiji SM, Kukuruzovic RH, Curtis NC, Massie J. Antibiotics for whooping cough (pertussis). Cochrane Database of Systematic Reviews 2007, Issue 3. Art. No.: CD004404. DOI: 10.1002/14651858.CD004404.pub3. Accessed 12 July 2026.


2026年の日本からの症例報告では、生後6週間の症状のあるマクロライド耐性百日咳菌感染症の乳児に対してST合剤を14日間投与しています。

Kuramochi Y, Shibata M, Morinaga M, Tame T, Kinoshita K, Saito O, Horikoshi Y. Microbiologic clearance in macrolide-resistant Bordetella pertussis: An infant treated with sulfamethoxazole-trimethoprim - A case timeline. J Infect Chemother. 2026 Feb;32(2):102907. doi: 10.1016/j.jiac.2026.102907. Epub 2026 Jan 9. PMID: 41520787.


【シート注釈*】

*1:保険適応外ですが「百日咳」に対して処方・使用した場合、社会保険診療報酬支払基金では当該使用事例を審査上認めることになっています。 

*2:新生児における肥厚性幽門狭窄のリスク/有害事象/安全性は、エリスロマイシン>クラリスロマイシン>>アジスロマイシン。

・Tiwari T, et al; National Immunization Program, CDC. Recommended antimicrobial agents for the treatment and postexposure prophylaxis of pertussis: 2005 CDC Guidelines. MMWR Recomm Rep. 2005 Dec 9;54(RR-14):1-16. PMID: 16340941.

・Almaramhy H, et al. The association of prenatal and postnatal macrolide exposure with subsequent development of infantile hypertrophic pyloric stenosis: a systematic review and meta-analysis. Ital J Pediatr. 2019 Feb 4;45(1):20.

*3:新生児における核黄疸(かくおうだん)の有無/ビリルビンの数値をみて救命のため個別に使用を検討します。

*4:思春期・成人:百日咳での保険適応がありませんが、傷病名「気管支炎/肺炎」で処方可能です。

*5:小児:百日咳での保険適応がありませんが、傷病名「肺炎」で処方可能です。

*6:米国での初日1回500mg、2~4日目1回250mg 4日間の推奨投与とは異なりますが、PK-PD理論上は同等の効果が期待できると考えられます。

*7:マクロライド系抗菌薬耐性百日咳が想定される場合には、ST合剤を第一選択とした処方を検討します。

Red Book: 2024-2027 Report of the Committee on Infectious Diseases, 33rd ed

*8:重症症例の場合には、アジスロマイシンとST合剤の併用投与も検討します。

・Kimberlin DW, Banerjee R, Barnett ED, et al. Red Book 2024-2027, 33rd ed, Report of theCommittee on Infectious Diseases: 656, 2024.

・Yu-Mei Mi,Ji-Kui Deng,et.al. Expert consensus for pertussis in children: new concepts indiagnosis and treatment World J Pedriatr.20(12):1209-1222,2024.

・「百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について」



7.いつまで休まないといけないの?








 
 

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